雨宿りの一杯

雨宿りの一杯

私はフランスのブルターニュに住んでいたのですが、夏は驚くほど雨の多い季節でした。

朝は晴れていたかと思うと、午後にはぱらぱらと降り始め、空はすぐにグレーに変わります。


けれど、誰も慌ててそれを避けようとはしませんでした。


雨が降ったら、止むまで一休みする。


それだけのことでした。

 

近くのカフェに飛び込んで、お茶を一杯。


あるいはグラスワインを一杯。


傘を持ってる人はおらず、雨が止むまで友人の家でアペロをしてから、雨上がりの通りへ出かけることもありました。


雨は予定を狂わせるものではなく、少しのんびりする時間という感覚でした。


日本の梅雨は、ブルターニュの雨とは少し違う表情をしています。


重く、湿った空気が何日も居座って、なかなか止む気配が見えてきません。


けれど、ふとあの頃の感覚を思い出すことがあります。


雨が止むのを「待つ」のではなく、雨の日だからこそ一息ついてゆっくり一杯を楽しむ、ということ。


そんな時に開けたいのが、イタリア・マルケ州のディアネッティが造るペコリーノです。


彼らのワイナリーは、シビッリーニ山脈とアドリア海を結ぶ、ヴァル・メノッキアという細い谷にあります。


日中はアドリア海から暖かい海風が吹き込み、夜にはシビッリーニ山脈から涼しい風が下りてきます。


昼と夜、ふたつの異なる気温が、一日のうちを行き来する場所です。


葡萄は地中海らしい強い日差しの中でしっかりと熟しながらも、夜の冷気のおかげで酸を失っていません。


収穫もそれを大切にするように、早朝、葡萄がまだ冷たいうちに手摘みされ、すぐにセラーへ運ばれるのだそうです。


グラスに注ぐと、レモンや白い花を思わせる香りがすっと立ち、口に含むときりっとした酸味が広がります。


重い空気の中でも、すっきりと爽快感を感じられるワインです。

私はブルターニュで感じた「雨の止む気配」を思い出しながら梅雨の時期にワインを飲むのが好きです。


梅雨の合間、傘を片手に少し早めに帰った日には、このペコリーノを開けてみてください。


雨音を聞きながらの一杯は、案外、悪くないものだと思っています。


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