イタリア中部、マルケ州の丘の上に、小さなワイナリーがあります。
Dianetti ーーディアネッティ。
母が葡萄を育て、息子がワインを醸す。
親子二人三脚で、ただひたすらに最高のワインを作り続けているワイナリーです。

初めてそのワインを口にしたとき、素晴らしいと思いました。
でも同時に、少し心配になりました。
酸味がしっかりとしていて、味わいは複雑で、奥深い。
ワインを長く飲んできた人には間違いなく「本物だ」と伝わると感じる一方、ワインに触れ始めたばかりの人には、少し難しいかもしれないと思ったからです。
日本でこのワインを愛してもらえるだろうかと、正直思いました。
それでも私は、このワインを届けたいと思いました。
なぜなら、ワイナリーを訪れて、二人に会ったからです。
お母さんも息子のエマニュエーレも、穏やかで優しい人たちでした。
しかし、畑に向かうときの表情は、話しているときの柔らかさとはまるで別人のように厳格でした。
畑を見たとき、息をのみました。
信じられないほどの美しさでした。

除草剤は使わない。
雑草は一本一本、手で抜く。
葡萄の収穫も、全て手摘み。
お母さんが毎日、丁寧に、ただひたすらに手仕事で管理し続けているその畑を見たとき、ワインの味わいの理由がわかった気がしました。

Dianettiが作るのは、ペコリーノというイタリアの地葡萄のワインです。
手間がかかる上に生産量が少ない。
そのためイタリアの市場からも、このワインは少しずつ姿を消しつつあります。
大量生産には向かない葡萄だからです。
効率を求めれば、選ばれない品種だからです。
それでもDianettiは造り続けています。

毎年ガンベロロッソで3つ星を獲得し、ソムリエたちから高い評価を受け続けながら、生産量を増やすことなく、お母さんの手仕事と息子の醸造技術で、最高のペコリーノを世に出し続けています。
このワインは、正直に言うと、誰にでも勧められるワインではありません。
ワインをたくさん飲んできた方、複雑な味わいを楽しめる方に、その真価が伝わります。
でも、だからこそ私は思うのです。
本当に良いものを知っている人に、本当に良いものを届けたい。
そしていつか、このワインの良さがわかる人が、日本にもっと増えてほしい。
Dianettiのワインを手に取るとき、私はいつもあの畑を思い出しています。


